香夜の本棚、上から二段目、左から6冊目の黒い背表紙の本より 私は香夜。珍しい品物と退屈のない日々を求めて旅をする行商人だ。 趣味は読書と訪れた街での日々を綴ること。 いや、「訪れた街」ではなく「城郭都市ペジュオン」と記すべきだろう。 私の黒い本はこの場所で始まりを迎え、この場所で終わるのかもしれない。 この街でおきる出来事を記録するには持ち運べないほどの黒い本が必要なのだから。 +扉の影にご用心+ 冒険者の控室がオープンした。 旅人達は戦闘職、非戦闘職の関係なしにこの場所に集まり会話を楽しむ。 時には情報交換や商談も行われているようだ。 普段は冷静でクールな冒険者の意外な一面を見る事も出来る。 (一部の人たちはこれが楽しみで控室に通うらしい) とても居心地のいい空間なのだが、人が少ない時間帯にはある現象が起こるのだ。 そう、それは「こなきち現象」である。 「こなきち現象」というのは長時間控室で一人寂しく時間をつぶすことをいい、 「召還の舞」という技を使うと解消されることがあるようだ。 前に一度踊っている人を見た。非常に面白かったのでしばらく放っておいたのだが、 そのうちに目が合ってしまい気まずい雰囲気になってしまった。 +噂のあの人+ ペジュオンには不思議なロボットがいる。名前は87号。量産型なのだろうか? 誰が作ったかは不明だが、英雄の護符を食しキルキルという音(声?)を出しながら歩いて行くのだ。 私の店にもたまにやってくる。この間など「ここの英雄の護符はおいしい」と褒めてもらった。 見た目は可愛らしいフォルムのロボットなのだが立派に戦闘もこなすらしい。 密かに戦闘時には「変形」するのではないかと思っているのだが、戦ってみた事はないのでわからない。 一度でいいから戦っているところを見てみたいものだ。 控室で「香夜のところの護符はイチゴ味」と言っている87号さんを見た。 感覚器が備わっているらしい・・・。 +梟との楽しい日々+ とある冒険者の飼っていた梟が私の店に住み着いた。名前はトラブルという。 面白い事を起こしてくれそうな名前だ。私がこの名前を気に入っていることは言うまでもないだろう。 トラブルは私の作ったロングスタッフの止まり木が気に入ったらしい。 昼は止まり木で静かに眠り、夜は音も無くペジュオンの空を飛びまわっている。 宿主に対して恩を感じているのか、この間捕ってきたネズミをプレゼントしてくれた。 しかし、前の主人と戦った頃の緊張感が足りないようで私に戦闘を仕掛けてくる。 昼ならば売り物の武器で応戦できるが、夜襲をかけてくるのは勘弁して欲しい。 君は主人を守る盾ではなかったのか・・・? 今朝起きたら顔に引っかき傷ができていた。 女の顔に傷をつけるとは許すまじ・・・覚悟を決めなさい、トラブル。 +試練の時+ 今日は天気が良かったので古代神殿跡で本を読んだ。神聖な土地で読む推理小説は最高にいい。 しばらく小説の世界に浸っていたが、ふと遠くに妖精と戯れる妖術師のDALGさんが見えた。 挨拶をしようと歩き出したが、私がその場所に着いたのはDALGさんが異世界に帰った後だった。 残念だが仕方がない。ぜひ妖精さんを紹介して欲しかったのだが・・・。 その時、下の草地に視線を落とした私は素晴らしいものを見つけた。 死ぬ前に一度は見てみたいものNO,3のフェアリーサークル! この精密な図形!芸術的になぎ倒された草!!ありがとうDALGさんっ!! 日が暮れるまでフェアリーサークルに見とれていた私は案の定、夜の神殿跡で道に迷った。 まさか梟に道案内をしてもらう事になるとは思わなかった・・・・・とほほ。 +あの人の真実+ あなたは「首切り」という名で呼ばれるバウンティハンターを知っているだろうか? その眼光はは月光を弾く刃よりも鋭く、その腕は狩をする獣よりもしなやかに剣を振るう。 そして誰よりも貪欲にレアアイテムと懸賞金のかけられた首を求めた。 街中のほとんどの者が彼を恐れた。しかし、それは彼のもう一つの顔を見るまでの短い間でしかなかったのだ。 ある日、冒険者の控室にかなりハイテンションな過去ログが残されていた。 私達はその発言者を見てから数秒間、瞬きをする事すら忘れてしまった。 「首切りと恐れられた男は、こんなにも気さくな人間だったのか!」 あぁ、なんともったいない事をしていたのだろうか。こんなに面白い事に今まで気がつかなかったなんて! 数日後、彼と道ですれ違った時に声をかけてみた。 「おはようございます、インガムさん。過去ログ見ましたよ!」 彼の表情は見事に固まっていた。・・・私はついニヤリと笑ってしまった。