香夜の本棚、上から二段目、右から5冊目の黒い背表紙の本より 私は香夜。珍しい品物と退屈のない日々を求めて旅をする行商人だ。 趣味は読書と訪れた街での日々を綴ること。 鮮やかに色づき、眩しいほどに輝いたこの時間をいつでも思い出せるように。 そして私が旅の途中でこの世から去った時、誰かが編集して出版してくれないかなぁ・・・、という小さな野望を抱いて。 (注:背表紙の黒い本はすべて忘れずにチェックすること。全ての本に五編ずつ綴っている) +ある貴族のスキャンダル+ ペジュオンにやってきてからしばらく経つ。私の名前もかなり有名になったらしい。 秋も終わりに近づいた頃、ある貴族から依頼を受けた。子供用の防水コートを作って欲しい、ということだった。 外で遊ぶのが大好きで、しょっちゅうドレスを汚してしまうのだそうだ。 「金に糸目はつけない。貴族の娘に相応しいものを」 と(偉そうに)言った中年男性はなるべくお近づきになりたくないタイプだった。 ともかく、高い素材をケチることなく使える機会なんてそうそうあるものではない。しっかり楽しませてもらおう。 数日後、私は少し古風だが洒落たつくり、完全防水、それでいて動きやすいという最高級のコートを手に入れた。 しかし、上機嫌で依頼人の館に向かった私を待っていたのは失笑を禁じえない事態だった。 私がコートを探している間に夫婦喧嘩がおこり、婦人は子供を連れて実家に帰り、依頼人に離縁状をおくりつけたらしい。 掃除のおばちゃんに教えてもらったのだが、これはいわゆるスキャンダルというものではないだろうか? 依頼人からは「金は払うが品物はもういらない。勝手に処分してほしい」という伝言と代金を受け取った。 しかし、これをどう処分しろというのだろう。子供服とはいえ、その辺の子供には着こなせないほど贅沢な仕様なのだ。 ・・・タンスのこやし・・・・・。 +恐怖と夕暮れの舞曲+ 日の暮れた町のどこかから引きずるような足音が聞こえてきた。 時々獣の唸るような声も混じっている。あまりの不気味さに店をたたんで逃げてしまおうと思い、 超特急で店じまいをしていると不意に肩をつかまれた。 恐怖に顔を引きつらせながらふり向いてみると・・・・・お腹をすかせた常連のお客さんが立っていた。 非常に重そうな鎧をつけ、大きな剣を引きずってきたらしい。ぐぅぐぅ鳴るお腹の音がウルサイ。 溜め息をつきながらも簡単な料理をだしてあげた。実は調理人をしていた頃もある。昔とった杵柄というやつだ。 料理のお礼に、と随分大きな袋を頂いた。今朝空けてみたら石くずと宝石が9:1の割合で詰まっていた。 怒るべきか喜ぶべきかかなり迷った・・・。 そして、戦闘職はトロイデ鉱山に行けないのではなかっただろうか・・・? 疑問は深まるばかりだ。 +二人の喜び、一人の安堵+ ゲンサクさんの店からの帰り道、トゥルバドールの夕城さんに会った。 肩にとても綺麗な人形を乗せていたのでつい見惚れてしまった。 それに気付いた夕城さんは新しい武器だと教えてくれた。 そして驚いたことにその直後、小さな人形の手が動き夕城さんの頬をつねったのだ! あっけにとられている私に向かってその人形は「今日の戦闘でドレスが汚れてしまったの」と愚痴(?)をいい、 夕城さんの頬をぐいぐい引っ張りながら「全部あなたが悪いのよ。一番のお気に入りだったのに」と怒りだした。 なんという可愛らしさ、なんという迫力!彼女こそあのコートを着るにふさわしい・・・! 私は感動に打ち震えながら例の防水コートを差し出した。 人形は満面の笑みを浮かべ、夕城さんはあからさまにほっとした顔で去っていった。 分かりやすい性格だなぁ・・・。 +冬の悲劇+ トロイデ鉱山から記念すべき50個目の石くずを持ち帰った。 今まで拾った石くずは捨てるのも面倒で店の隅に積んであるが、お客さんからの評判がすこぶる悪い。 私も見るたびに「一つ積んでは父の為・・・」とつい呟いてしまう。 漬物石として販売しようかと思ったが売れそうもないので城門の外に捨てに行くことにした。 冬の空は高い。星の光は澄んだ空を真っ直ぐに降りてきて突き刺すような寒さへと変化していた。 城門の外にある夜の世界は鮮明に心に残る夢のようだった。 ぼんやりと夜空を見ているうちに指先の感覚がなくなっていた。 慌てて店に戻ったが時すでに遅く、数分間しもやけの痒さにのたうちまわった。 今度からはしっかり手袋をしていこうと思う。 +優雅に叱責する午後+ 街の広場にトゥルバドールの夕城さんがいた。もちろんあのかわいい人形も一緒だ! あぁ、今日も愛らしく美しい! とりあえず見つけてきたばかりのミルクとケーキを振る舞い、最近発見されたアイテムや しばらくぶりに姿を現した凄腕のバウンティハンターの話をした。 話題が女性のことになると夕城さんの目が爛々と輝いていた。 そこまで真剣にならなくても歌や詩が得意な夕城さんならかなり人気がありそうなのに・・・。 不思議だ。 今日は人形さんの名前を教えてもらった。 フィルティアーナちゃんというそうだ。 商売にはならなかったが至福の時だった・・・。